ファシリテーター

内山 拓朗(ビーレガシー)

「ビーレガシー」の編集長。地域に受け継がれてきた価値や挑戦、この土地の未来を切り開いていく方々に話を伺い、その魅力を伝えている。

長野県でラーメン・餃子・定食を提供する「みんなのテンホウ」。今回お話を伺ったのは、代表取締役社長の大石壮太郎さんです。

大石さんは、自分のことを「代表取纏(とりまとめ)役」と呼ぶといいます。社長がすべてを決めるのではなく、現場で働く人が自分で考え、楽しく仕事ができる会社をつくりたい。その思いを、帰郷後、長い時間をかけて形にしてきました。

「店長は社長よりも偉いかもしれない」。そう語る大石さんに、東京での会社員経験、現場に任せる仕組み、そして長野で働く人への思いを伺いました。

「代表取纏(とりまとめ)役」とは? 「取締まらない会社」をつくるということ

内山:まずは、大石さんの自己紹介からお願いできますか。

大石さん:みんなのテンホウの代表をしています。長野県のなかで、食を通じて豊かさを提供できないかと考えながら、いろいろなことを楽しんでやっている会社です。

内山:大石さんは、ご自身を「代表取纏(とりまとめ)役」と呼ばれているそうですね。

大石さん:そうなんです。「代表取締役」と言いますが、僕は“取締まる”よりも、どうしたら楽しく働く会社をつくれるのかをずっと考えてきました。指示命令だけでは楽しくないじゃないですか。自分で考えてやったことが、会社の目指す方向と重なっていく。そうなったら、すごくいい会社だと思うんです。

内山:トップがすべてを決めるのではなく、みなさんが自ら動ける状態をつくることが、代表の仕事でもあるんですね。

大石さん:最後の責任は当然、僕が取ります。そのうえで、働く人が「こうしたい」と思って動ける会社にしたい。そのために何が必要かを考え続けてきました。

インタビューで組織づくりについて語る大石さん
写真:インタビューで組織づくりについて語る大石さん

高校時代に決めた家業の継承。東京で働いて26歳で戻った理由

内山:テンホウを継ぐことは、いつ頃から考えていたんですか?

大石さん:高校生の頃には、この会社を継ぐと決めていました。ただ、大学を出てすぐに戻るのではなく、一度は東京で就職しようと思ったんです。最初から家業に入ると、父が代表だったこともあって、どうしても甘えが出るかもしれない。使われる側の気持ちも知っておきたかったんですよね。

内山:東京では商社に勤められたんですね。

大石さん:就職氷河期で、なかなか就職が決まらない時代でした。ようやく拾っていただいた商社で約3年働きました。戻ってきたときに、現場の売上を上げるためのアドバイスができるようになりたかったんです。

内山:26歳で長野に戻られた頃、会社はどのような状態だったんですか?

大石さん:業績も少し下がり、社内には不平不満や諦めの空気がありました。「どうせ言っても無駄だよ」という雰囲気があって。仕事はもっと前向きに、面白くできるものじゃないか。じゃあ、どうしたら楽しくなるのか。そこからずっと取り組んできました。

東京の商社で働いていた頃の大石壮太郎さん
写真:東京の商社で働いていた頃の大石壮太郎さん

「店長は社長よりも偉いかもしれない」—現場に判断を委ねる理由

内山:大石さんは「店長は社長よりも偉いかもしれない」と話されています。そこには、どのような思いがあるんですか?

大石さん:お客様に直接接するのは現場の人たちです。売上のことも、お客様とのつながりも、また来てくださるお客様が増えるかどうかも、現場の対応で決まる。会社を支えているのは、お客様と接する従業員のみなさんなんです。

内山:代表が責任を持ちながら、日々の判断は現場に任せる。

大石さん:そうですね。僕が「鶴の一声」を発しても、直属の上司の判断を飛び越えるものなら「それはダメです。却下です」と言われることもあります(笑)。直属の上司が一番権限を持つ。そのことを大事にしています。

内山:社長の言葉より、現場の指揮系統を守ることがあるんですね。

大石さん:僕の仕事は「この指とまれ」なんです。世の中をよく見て勉強して、会社はこっちへ行きたいんだけど、一緒にやってくれないかと示す。進む方向を間違えないために努力するのが、代表の役割だと思っています。

内山と大石さんの対談の様子
写真:内山と大石さんの対談の様子

本部だけで決めない商品開発。得意な人が、得意な場所で力を出す

内山:商品開発も、現場の方が関われるようになっているそうですね。

大石さん:以前は本部が商品をつくって、各店に出していました。でも今は、商品開発が得意な人にはどんどんつくってもらっています。店長だけでなく、やりたい人が関われる形です。

内山:最初から、みなさんが前向きに受け入れたわけではなかったんですよね。

大石さん:最初は「本部で決めてくださいよ」という声もありました。言われたことだけをやるほうが楽な人もいます。でも、意欲を燃やして「それならやりたい」と手を挙げる人がいて、その人たちが楽しそうに働く姿が、会社を盛り上げてくれました。

内山:新しいことに挑戦する人と、日々のお店を守る人。どちらも必要です。

大石さん:そうなんです。新しい商品をつくるのが得意な人もいれば、自分の店を守り続けることが得意な人もいる。役割が違うだけなんですよね。それぞれが得意なところで力を出せる組織にしたいと思っています。

香味ねぎ塩らーめん
写真:香味ねぎ塩らーめん(提供写真)

利益は自分たちで分ける。納得から生まれる当事者意識

内山:評価の仕組みも、現場で話し合う形に変えられたと伺いました。

大石さん:会社が必要とする営業利益の目標は共有します。その目標を超えた分をどう分けるかは、チームで話し合って決めてもらうようにしました。

内山:自分たちで分けるとなると、意見がぶつかることもありそうです。

大石さん:もちろん揉めますよ(笑)。誰がどれだけ貢献したかを話し合うので。でも、上から評価を決められるより、自分たちで納得するまで話したほうが、最終的には納得感が高まるんです。

内山:数字を公開しているのも、そのためですか?

大石さん:そうです。会社の数字も伝えています。社員の給料を上げるには、営業利益を上げなければいけない。そのことが見えていれば、ただ働くのではなく、自分たちで考えて動こうという気持ちにもつながると思っています。

社員にも共有している経営帳票のイメージ
写真:社員にも共有している経営帳票のイメージ

「絶対に解雇しない」。コロナ禍で社員に伝えた言葉

内山:コロナ禍では、社員のみなさんに手紙を書かれたそうですね。

大石さん:先が見えず、「会社は大丈夫なんですか」と心配する人もいました。だから、売上が下がっても絶対に解雇することはない、責任は全部僕が持つので、現場でできることを考えてやってみてほしいと伝えました。

内山:不安なときに、代表が言葉にして示すことは大きいですね。

大石さん:必死でした。でも、経営が苦しいときにネガティブなチームになっても、誰も幸せにならない。そういうときこそ「大丈夫だから、お前ならできる」と言える人間になりたいし、そういう人が増えてくれたらいいなと思っています。

厨房で働くスタッフのみなさん
写真:厨房で働くスタッフのみなさん

まとめ:長野で働くことを、誇れる選択肢に

内山:最後に、みんなのテンホウで働くことに興味を持った方へ、メッセージをお願いします。

大石さん:長野で働き続けたい人が、ここで働いていてよかったと思える会社にしたいです。自分の得意なことを生かして、新しい可能性をつくっていける。そんな場所でありたいと思っています。

内山:一人ひとりが考え、役割を発揮することが、会社と地域の未来にもつながっていく。

大石さん:そうですね。食を通じて、長野で暮らす人たちに少しでも豊かさを提供できるように、これからも楽しんでやっていきたいです。

内山:本日はありがとうございました。

みんなのテンホウ 諏訪ステーションパーク店
写真:みんなのテンホウ 諏訪ステーションパーク店

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