あだち ちひろ

ボードゲームリゾート GAW ゲームマスター

長年ボードゲーム業界に携わってきたプロのゲームマスター。GAWでは企業への事前ヒアリングからゲーム選定、当日のファシリテーション、後日のフィードバックまでを一貫して担当。樋口太陽さんの妻でもある。

ファシリテーター

石島:(ビーレガシー)

地域応援メディア「ビーレガシー」のファシリテーター。地域に受け継がれてきた価値や挑戦、この土地の未来を切り開いていく方々に話を伺い、その魅力を伝えている。

東京から車でおよそ2時間。標高900〜1300mに位置する長野県原村(はらむら)に足を踏み入れると、深呼吸したくなるような澄んだ空気が広がります。

都内とはひと味違う爽やかな空気と、目に飛び込んでくる深い緑。そんな八ヶ岳の自然に囲まれたこの地に、2024年、「ボードゲームリゾートGAW(ガウ)」がオープンしました。

運営するのは、「あたりまえ体操」やNHK「シナぷしゅ」の楽曲を手がけてきた音楽プロデューサーの樋口太陽さんと、長年ボードゲーム業界に携わってきたゲームマスターのあだちちひろさん。

今回は、飲み会ではなかなか引き出せない社員の本音が、なぜボードゲームなら自然と表れるのか。そして、この八ヶ岳の環境がプログラムにどのような効果をもたらしているのかについて、詳しくお話を伺いました。

スマホを預けて仲間と向き合う。GAWが提供する“非日常”の研修空間

石島: まずGAWがどんな場所なのか教えていただけますか?

樋口さん:GAWは、長野県原村、八ヶ岳の麓にある企業様向けのボードゲーム研修施設です。
僕らは以前から東京と原村の2拠点生活を続けていたのですが、東京から約2時間で来られるにもかかわらず、原村に足を踏み入れると空気も景色もガラッと変わるんです。

そんな八ヶ岳の豊かな自然のなかでボードゲームをしたら、普段は味わえない体験が生まれるのではないか。そう考えたのが、GAWを始めたきっかけです。

石島:入口でスマートフォンを預けるんですよね。それにはどのような理由があるんですか?
樋口さん:非日常の体験を味わってもらうためです。八ヶ岳の自然に囲まれた環境でボードゲームをするだけでも十分特別な体験なのですが、デジタルガジェットを預けることで、ゲームや一緒にいる仲間との時間により没頭できるので。

石島:なるほど。スマートフォンから離れることも含めて、日常から少し距離を置くための仕掛けなんですね。

樋口さん: そうですね。実はGAWの敷地は建物の裏にも大きく広がっていて、室内でゲームを楽しんだあとは、屋外でも過ごしていただけます。

立食パーティーをしたり自然のなかでゲームをしたり。4〜5時間ゲームに集中したあとに外へ出ると、八ヶ岳の空気や景色をより強く感じられるんですよね。

石島:ゲームに集中したあとに、八ヶ岳の空気を感じられるのは気持ちよさそうですね。

樋口さん:そうなんです。そもそも、会社のメンバーとボードゲームをプレイすること自体が、日常とは違う体験だと思うんです。そこに、八ヶ岳という普段とは異なる環境が加わる。

僕らは、そうした「二重の非日常」をつくりたいと考えています。

石島:これだけたくさんのボードゲームがあると迷いそうですが、当日遊ぶゲームはどのように決めるんですか?

あだちさん:お客様が八ヶ岳にお越しいただく前に、オンラインで事前ヒアリングを行っています。
参加者のみなさんの関係性やチームの課題、目標などを詳しくお伺いしたうえで、その日に遊ぶゲームを選び、5時間の体験をひとつのコースとして組み立てています。
課題に合わせてプログラムを設計しているのがGAWの特徴です。

座学では生まれない学びがある。ボードゲーム研修の可能性

石島:企業研修というと、座学やセミナー形式などいろいろありますが、ボードゲームで行う研修はどんなところが違うんですか?

樋口さん:一番の違いは、全員が能動的に参加できることですね。ボードゲームは自分で考え、発言し、行動しないと進みません。

だから、誰一人眠くならないんです(笑)。

石島:たしかに、ただ話を聞くだけではないですもんね。
樋口さん:そうなんです。僕自身、過去に講座で大きな学びを得た経験があります。
でも、同じ会場には眠そうにしている人や退屈そうにしている人もいて。

石島:同じ研修内容でも、受講者によって受け取り方や反応が違うんですね。

樋口さん:そうですね。座学って、それまでの経験や課題意識によって、吸収できる量にかなり差が出るんですよね。同じ内容でも、「すごく勉強になった」と感じる人もいれば、「眠かっただけ」で終わってしまう人もいる。
一方でボードゲーム研修は、まず全員が参加者になる。そして「楽しい」が入口にある。そこが座学との大きな違いだと思います。

飲み会より人柄が見える?ボードゲームが本音を引き出す理由

石島:飲み会やゴルフなど、仕事以外で交流する機会はありますよね。それでもボードゲームのほうが本音や人柄が見えやすいのはなぜなのでしょうか?

樋口さん:一番大きいのは、社会人として身につけてきた「作法」が通用しないことだと思います。
飲み会やパーティーって、実は「作法」が結構決まっているんですよね。誰と話すか、どんな距離感で接するか、無意識のうちにみんな空気を読んでいる。

だからお酒を飲んでも、意外とその人らしさや素の部分って出ないんです。

30人集まっていても、結局いつも話すメンバーとしか会話していなかった、なんてこともあります。

石島:たしかに、飲み会だと自然と話す相手が固定されることも多いですよね。

あだちさん:ボードゲームはゲームが変わるたびに席替えをするので、意図的に違うメンバーと関わる機会をつくれるんです。


樋口さん:ボードゲームは、社会人として身につけてきた振る舞いや立場があまり通用しません。だからこそ、普段は見えないその人らしさが出るんです。

飲み会よりもむしろ、素面(しらふ)でボードゲームを一緒にプレイしたほうが人柄が見えると実感しています。

石島:ゴルフで性格が見えるという話にも近い感覚ですか?

樋口さん:近いと思います。特にボードゲームは、1日のなかで何種類も体験できるので、その人のいろんな側面が見えるんです。

石島:実際に、参加者の意外な一面が見えたケースはありますか?

あだちさん:若手社員の方が、経営層の方にゲーム後、気さくに話しかけていたりとか。あとは、いつもは冷静な人がどんどん熱くなって、気づけば声が大きくなっていたり。周りのメンバーが「そんな一面があったんだ」と驚く場面はよくありますね。


樋口さん:ボードゲーム研修は、ただ楽しく交流することだけが目的ではありません。
プレッシャーがかかったときにきつい言葉が出てしまうとか、意外と打たれ弱い一面があるとか。そうした普段は見えない一面が表れることこそ、ボードゲーム研修の価値だと思っています。

対話が生まれるチームへ。課題に合わせたプログラム設計

石島:実際にGAWに来る企業様は、どのような課題を抱えているんですか?

あだちさん:部署や役職の壁を越えてコミュニケーションを活性化したいとか、普段は言いづらいことも率直に話せる関係性をつくりたいというご相談が多いですね。

石島:具体的にはどのような依頼がありますか?

あだちさん:「ハラスメントを気にしすぎて、上司が部下に何も言えない」という相談もありますし、新しい会社を立ち上げるにあたって、メンバーそれぞれのパーソナリティを知りたいというご相談もあります。
組織やチームによって課題はさまざまですが、「もっと率直に話せる関係性をつくりたい」というニーズは共通していますね。

石島:そういった課題に対して、どのようにプログラムを設計するんですか?

あだちさん:まず事前に課題やチームの状況を詳しくお伺いします。
たとえば関係性をほぐしたいチームと、お互いの性格や強みを知りたいチームでは適したゲームも変わるので、目的に合わせてプログラムを設計しています。

石島:依頼する側はゲームに詳しくなくても大丈夫ですか?

あだちさん:まったく問題ありません。GAWを利用する方は、ほとんどボードゲーム未経験なんです。

石島:それは意外ですね。ボードゲーム好きな方が訪れる施設なのかと思っていました。

樋口さん:そうなんです。実はむしろ初心者向けなんです。初めての方のほうが驚きも大きいですし、「こんなコミュニケーションの取り方があるんだ」と感じてくださることも多いですね。

石島:参加者によって反応も変わりそうですね。

あだちさん:まさにそうです。メンバーが違えば選ぶゲームも変わりますし、同じゲームをしても生まれるドラマはまったく違います。一度として同じ体験にはなりません。

ゲーム後のフィードバックで見えてくる強みと個性

石島:GAWのプログラムは、ゲームをやって終わりではないんですよね。後日行われるフィードバックについて教えてください。

あだちさん:ゲームを体験していただいた数日後に、事前に設定した日程でフィードバックを行います。
チーム全体のコミュニケーションの特徴に加えて、ゲーム中のプレイスタイルから見えた一人ひとりの強みや傾向もお伝えしています。

具体的には、プレイスタイルをもとに6つのキャラクタータイプを分析し、一人ひとりにコメントを添えたフィードバックシートを作成しています。

石島:これをゲームマスターをしながら観察しているんですか?

あだちさん:そうです。ゲームに集中していると、自分では意識していない行動のクセや考え方が自然と表れるんです。

そうした様子を観察しながら、一人ひとりの特徴を整理してフィードバックシートにまとめています。

樋口さん:僕らは参加者のみなさんの普段の様子を知らない状態で見ているんですけど、ゲーム中の振る舞いから「すごく協調性がある」とか、「自然と場をまとめるのが上手い」といった特徴がかなり見えてくるんです。

人事の方に確認すると、「まさにその通りです」と言われることも少なくありません。

石島:数字だけでは見えない強みや個性が見えてくるんですね。

樋口さん:そうですね。普段の仕事では数字や成果で評価されることが多いですが、ボードゲームではまた違った一面が見えてきます。

「この人は周囲を支えるのが上手い」とか、「チーム全体を見ながら動ける」といった、その人らしい強みを伝えられるのもフィードバックの価値だと思っています。

石島:参加者の方には、事前にフィードバックがあることを伝えているんですか?

樋口さん:自然な振る舞いを見たいので、あまり詳しくは伝えないこともあります。「ゲーム中の様子を見させていただくことがあります」くらいですね。
フィードバックをお渡しすると、「そんなところまで見えていたんですね」と驚かれることも少なくありません。

石島:参加者の方は、そこまで見られているとは思っていないわけですよね。

樋口さん:ゲームに夢中になっているので、まず気づかないですね。

石島:つまりこの記事の存在は、研修前の社員には内緒にしておいたほうがいいかもしれませんね(笑)。樋口さん:そうですね(笑)。

焚き火とクラフトビールまで。GAWの研修プログラム内容と料金

石島:ボードゲームをプレイして終わりではなく、振り返りがあるからこそ学びにつながるんですね。実際には、どのような流れで研修が進むんですか?

あだちさん:一番スタンダードなのは、11時ごろから16時までの5時間コースですね。
午前にゲームをして、ランチを挟んで、午後もゲームを楽しんでいただきます。まずはこのプランを選ばれる企業様が多いですね。
ほかにも、ディナー付きプランや懇親会込みのプラン、2日間かけて行うプランもあります。

石島:人数は何人から対応できるんですか?

あだちさん:6人から最大30人までです。1日1組限定の貸切で運営しています。また、私が必ずゲームマスターを担当するので、別のスタッフに替わることはありません。

石島:費用はどのくらいですか?

あだちさん:1人1万8,000円〜です。ランチ代・ファシリテーター費用・ゲームレンタル費・会場貸切費がすべて含まれています。
1日の最後には「チルタイム」という時間を設けていて、焚き火を囲みながらゲームをしたり、参加者同士で話したりもできます。

樋口さん:そのチルタイムで飲んでもらうのにぴったりなビールを作ろうということで、近隣のブルワリー「8 Peaks BREWING(エイトピークスブルーイング)」に相談して、オリジナルのクラフトビールを作りました。

おそらく世界で唯一の、「ボードゲーム後のチルタイム用」をコンセプトにしたビールだと思います。

石島:ゲームやフィードバックだけでなく、八ヶ岳の自然のなかで過ごす時間そのものもプログラムの一部なんですね。

まとめ:遊びを学びに変える。GAWが広げるボードゲームの可能性

石島:今日お話を伺って、GAWは単にボードゲームで遊べる施設ではなく、チームづくりや学びの体験全体を設計されていることがよく理解できました。
最後に、GAWに興味を持っている方に向けてメッセージをいただけますか?

樋口さん:ボードゲームというと、まだ「遊び」というイメージを持たれる方も多いと思います。でも実際には、人との関わり方やコミュニケーションの特徴が自然と表れる、とても面白いツールなんです。

せっかく八ヶ岳まで来ていただくので、GAWでゲームをして帰るだけではなく、この地域そのものも楽しんでほしいと思っています。共通の体験を一緒にすることが、チームづくりにはすごく大事なんですよね。

2泊3日でも3泊4日でも、八ヶ岳で過ごした時間そのものをチームの財産として持ち帰ってもらえたら嬉しいです。

石島:GAWの体験だけでなく、八ヶ岳という地域ごと楽しむことで、チームの共通の思い出になるわけですね。本日はありがとうございました。

樋口さん・あだちさん:ありがとうございました。

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