ファシリテーター
石島:(ビーレガシー)
地域応援メディア「ビーレガシー」のファシリテーター。地域に受け継がれてきた価値や挑戦、この土地の未来を切り開いていく方々に話を伺い、その魅力を伝えている。
長野県茅野市は、新宿から特急で約2時間。八ヶ岳連峰の西側に広がる、人口約5万人のまちです。
2026年4月、まちの玄関口であるJR茅野駅直結の駅ビルに、新しいコワーキングオフィス兼リビングスペース「8Peaks living」がオープンしました。
立ち上げたのは、地元の経営者を中心に、観光・製造・農業・医療など多様な領域で活動するメンバーたち。
その中心にいるのが、株式会社8Peaks family(エイトピークスファミリー) オーナー・取締役の矢崎高広さんです。
今回は、仲間づくりのリアルや、八ヶ岳で続けてきたまちづくりの挑戦について伺いました。
友達が一人しかいない地元で、仲間づくりをどう始めたか
石島:まずは、矢崎さんの自己紹介からお願いできますか。
矢崎さん:矢崎高広と申します。現在48歳で、株式会社8Peaks familyのオーナー兼取締役をしています。
18歳まで、八ヶ岳の西麓にある長野県茅野市で育ちました。
予備校進学を機に東京へ出て、そのまま18年間、東京を中心に生活していました。地元に戻ってきたのは36歳のときです。

石島:現在は、地元の茅野市でどのような活動をされているのですか?
矢崎さん:八ヶ岳西側エリアを中心に、仲間たちと観光やまちづくりの活動に取り組んでいます。
この活動は、もともと観光に関わる事業者や個人事業主の方たちと一緒に、「八ヶ岳西側エリア全体を盛り上げよう」という思いから始まりました。市町村の枠を越えて、人や地域をつないでいく取り組みです。
今では、観光に加えて、農業や製造業、医療、介護、福祉、駅前活性化などにも関わるようになりました。
石島:8Peaks familyは、地元に戻ってきてからすぐに立ち上げられたんですか?
矢崎さん:いいえ、すぐに立ち上げられたわけではありません。
18年も地元を離れていたので、友達が一人しかいなかったんですよ。だからまずは、仲間を増やすところからでした。
石島:そこから、どのように地元の方との関係を広げていったのですか?
矢崎さん:ご縁があって、青年会議所(JC)に誘っていただきました。そこから少しずつ、地元の方とのつながりが増えていきましたね。
もちろん最初は知らない方ばかりで、正直かなり気疲れもして、「今日はもう帰ろうかな」「飲み会は行くのやめようかな」と思う日もありました。
でも、会議には必ず参加して、懇親会も最後まで残る。それを繰り返しているうちに、少しずつ顔見知りが増えていったんです。
石島:どのくらいで、つながりができてきた実感がありましたか?
矢崎さん:4年ぐらいかけてようやく100人くらい、顔の見える関係ができてきた感覚がありました。
最初の2年間は、東京に住みながら、青年会議所(JC)の会議の日だけ茅野に通っていたんです。夜の会議と懇親会に参加して、実家に泊まり、翌朝また東京へ戻る。
その後、長男の保育園入園のタイミングで家族と一緒に茅野へUターン移住して、さらに2年。
そうやって、少しずつ地域の方との関係を築いていきました。
地域活動の原点は父。前の世代が残してくれたまちを次の世代へ

石島:そもそも、地域やまちづくりに関心を持った原点はどこにあったんですか?
矢崎さん:実は、亡くなった父が茅野市の市長をしていたんです。
私が中学1年生のときに初めて選挙に出て、一度落選したんですが、高校生の頃に当選して。それから12年間、市長を務めました。
石島:そうだったんですね!
矢崎さん:小さい頃から、ずっと父の背中を見て育ちました。
でも、自分がまち街を残していくことを本当に意識したのは、36歳で地元に戻ってきてからだったんです。
父と同じ世代の先輩方と話すなかで、「あの頃、みんなでこういうまちをつくろうとしていたんだよ」という話を聞く機会が増えていきました。
話を聞くうちに、今の茅野市って地域のみなさんが長い時間をかけてつくってきたまちなんだなと、しみじみ感じるようになって。だったら、自分たちも次の世代に、このまちや人のつながりをちゃんと残していかなきゃいけない。
そう考えるようになって、自然とまちづくりや地方創生に関わるようになっていきました。
少しずつ仲間が集まり、「8Peaks family(エイトピークスファミリー)」を設立
石島:そこから、どのように仲間を集めて、8Peaks familyの立ち上げにつながったんですか?
矢崎さん:青年会議所(JC)に在籍していた頃、地域の方向けのセミナーを年6〜7回ほど開催していました。セミナー後の懇親会では、参加してくださった方一人ひとりと話をしていたんです。
すると、「地域で何かやってみたい」と思っている方は意外と多くて。
サイクルツーリズムに興味がある方や、アウトドア体験に関わっている方など、少しずつ仲間が増えていきました。そして、最初は10人の取締役で8Peaks familyを立ち上げました。

石島:そうだったんですね。8Peaks familyという名前には、どのような意味が込められているんですか?
矢崎さん:「8(エイト)」は八ヶ岳の「八」、Peaksは「岳」です。
もともとは、地元でクラフトビールをつくっている仲間が、「8 Peaks BREWING(エイトピークスブルーイング)」という商品名を考えたときに生まれた言葉です。
八ヶ岳の麓に集う、家族のような仲間。8Peaks familyには、そんな意味を込めています。
白樺湖のカヤック×和太鼓|地域資源から生まれた体験プログラム

石島:8Peaks familyを立ち上げて、最初に取り組んだのはどのような事業だったのですか?
矢崎さん:仲間のなかに、和太鼓の後継者や、白樺湖でカヤック事業をやっている方がいたんです。
そこで、「この2つを組み合わせたらおもしろいんじゃないか?」という話になりました。
カヤックで湖へ漕ぎ出して、島の上で和太鼓の演奏を船上から眺める。途中で上陸して、今度は自分たちで太鼓を叩く。そしてまたカヤックを漕いで戻ってくる。そんな体験プログラムを、観光庁の補助金も活用しながら形にしていきました。
石島:それはおもしろいですね。湖の上で和太鼓の演奏を聴くって、かなり特別な体験ですよね。どういう方に向けた体験なんですか?
矢崎さん:蓼科や白樺湖、八ヶ岳は、新宿から特急で2時間ほどで来られる観光地なので、もともと観光客の多いエリアなんです。そのなかでも、少人数のグループや家族連れの方に楽しんでもらいたいと考えていました。
2度の再編。一筋縄ではいかなかったチームづくり
石島:仲間が増えていくなかで、チームづくりの難しさもあったんですか?
矢崎さん:はい。実は、今のチームは3回目の形なんです。
最初は、とにかく何か結果を出したいという気持ちが強くて、分野を問わず仲間をどんどん増やしていました。
ただ、人数が増えるほど、それぞれのやりたいことも広がっていって。だんだん方向性を揃えるのが難しくなってしまったんです。
「人を増やすことが目的になっているかもしれないな」と感じて、一度リセットしました。

石島:そこから、もう一度チームを作り直したんですね。
矢崎さん:はい。2回目は、観光や地域活性化に関わりたい人たちを中心にチームをつくりました。
ただ、本業として観光事業に取り組んでいる人と、面白そうだから関わりたいという人とでは、どうしても熱量や責任感に差が出てきてしまったんです。
最終的には、「同じ熱量で続けられる人たちとやろう」と考えて、30〜40人いたメンバーを10人まで絞りました。
それが、今の8Peaks familyの形です。
得意と苦手を補い合ってできた今のチーム

石島:チームを作るうえで、矢崎さんが大事にしていることはなんですか?
矢崎さん:まず、自分に何ができて、何が苦手なのかをちゃんと知ることだと思っています。
私の場合、アイデアを出して、仲間と一緒に新しいことを形にしていくのが好きなんです。でも、緻密にマネジメントして日々の運営を回すのはあまり得意じゃない。
それと、営業やマーケティングはできるけれど、財務会計やPR、ITは苦手で。
石島:その足りない部分を、仲間で補っていったんですね。
メンバーの得意・苦手は、どうやって整理したんですか?
矢崎さん:自分の得意・苦手を項目ごとに書き出して、レーダーチャートにするんです。これを私たちの間では「仲間シート」と呼んでいます。
私の場合はセールスだけ突出していて、別の人は財務会計が強かったりネット系に強かったりする。
得意な領域が違う人たちが集まることで、チーム全体として必要な機能を補い合えるようになりました。
石島:そうして集まった仲間を、どうやって一つのチームとしてまとめていったんですか?
矢崎さん:一番大事にしていたのは、「このチームで何を目指すのか」を伝え続けることでした。いわゆるMission・Vision・Valueですね。
たとえば、セミナーの冒頭で毎回10分くらい、同じ資料を使って何度も話していました。
「30年後、50年後に、自分の子どもや孫が帰ってきたくなるまちをつくろう」と。ちょっと青臭い話なんですけどね(笑)。
石島:それを聞いているみなさんは、どのような反応でしたか?
矢崎さん:もちろん、「青臭いこと言ってるな」と思った人もいたと思います。
でも逆に、「地域の未来を良くしたいと思っていても、恥ずかしくて言えなかった」「そういった活動をやりたいとおもっていた」という方たちが、自然と集まってくれたんです。
誰かに強制されているわけじゃない。それでも続いているのは、目指しているものが近い人たちが集まっているからなんだと思います。
石島:ここまでのお話を聞いていると、かなり順調な印象ですが、今感じている課題はありますか?
矢崎さん:ありがとうございます。正直、まだまだ課題はあります。
たとえば、観光分野では、国の補助金を活用しながら、地域の体験プログラムをいくつも作ってきました。
ただ、それを継続的に売れる形にして、利益を次の挑戦につなげていくところまでは、まだ十分にできていません。
一過性で終わらず、継続的に回っていく仕組みをつくることが今の課題です。
また、医療や介護、農業、製造業など、いろんな分野の仲間も集まってきましたが、仲間が集まることと、事業として成立させることはまた別の難しさがあるんですよね。
それを実際に形にしていくのは、まだまだこれからだと思っています。
まとめ:JR茅野駅直結、八ヶ岳の「リビング」で会いましょう
石島:最近では、JR茅野駅前の拠点づくりにも取り組まれているんですよね。
矢崎さん:はい。JR茅野駅の目の前に、長年空いていた駅ビルのスペースがあったんです。
そこに、コワーキングオフィスやビジネスラウンジと、コワーキングオフィスと、地域の方が気軽に立ち寄れるリビングエリアを兼ね備えた「8Peaks living」をつくりました。2026年4月にオープンしたばかりです。
石島:まさに、人が集まる場所を駅前につくっているんですね。
最後に、8Peaks familyの活動に興味を持った方へ、メッセージをお願いします。
矢崎さん:まずは気軽に遊びに来てほしいです。蓼科や白樺湖、八ヶ岳は都内から特急で約2時間で来られます。
私も仲間も、普段からJR茅野駅直結の「8Peaks living」にいることが多いので、お酒が好きな方はぜひ一緒に飲みましょう(笑)。
石島:ぜひこの記事を読んで気になった方は、訪れて見てください。
本日はありがとうございました。